[増野肇先生 連載] 夢 見 る 勇 気

心の健康講座とサイコドラマで、当事者や家族に大きな安心感をプレゼントし続けて下さっているマッシ―こと増野肇先生。
80歳を超えても、心は増々豊かに広がり、みんなとサイコドラマを楽しみ、心の健康講座では絶妙なアドバイスをして、やさしい笑顔で包み込んでくれています。
精神科医であることも忘れている、または超越している、こんなにも偉大な先生が、これからの時代、現れるだろうかとも思ってしまいます。
そんな先生に、当事者の長谷川誠さんが「精神科医の肩書も、ルーテル学院大学名誉教授であることも外して、
普通のおじいさんとして語って欲しい。教科書と違う精神保健福祉の本が欲しい」と、まっすぐな気持ちを伝えて頼みました。 

そこで通信154号から、マッシ―がひとりのおじいさんとして語る、長谷川誠さんとの対談「夢見る勇気」がスタートします。
精神分析のフロイトとサイコドラマのモレノの出会いから物語が始まっています。
歴史を辿りながら、私達は未来に生きる可能性を見つけていけることでしょう。どうぞ新連載をお楽しみください。 

NPO法人クッキングハウス会代表 松浦幸子

☆ 夢見る勇気 連載第一回 ☆ 

(じいさんが日の当たる縁側で庭を見ていると、まことが現れる)
じいさん:おや、まことさんだね、また、なにか聞きたいことがあるのかな?
まこと:聞きたいことがあるよ。ねえ、夢見る勇気を作るってどういう意味?
じいさん:「夢見る勇気」?どこで、その言葉を聞いたのかね。
まこと:心理劇学会のニュースを見ていたらそこに書いてあったんだよ。
じいさん:へー、そんなもの読んでいるのかね。感心だね。でも、心理劇ならマッシー教授が専門だね。マッシーに聞いてみたら?
(アイパットのようなものを取り出す)
これはね、「バイパット」と言って、何でも知りたいことが立体的に出て来るんだよ。どれ、「夢見る勇気」を引いてみようか。
(画面にマッシー教授が現れる)
マッシー:それは、この本の中に出てくるのだ。「神を演じ続けた男」つまりモレノの伝記だ。私が翻訳したのだ。この翻訳には苦労した。ウイーンまで行って確かめたんだ。懐かしいな。その本の中で、フロイトとモレノが出合うところがある。
まこと:フロイトとモレノはけんかしたの?
マッシー:心理劇の創始者であるモレノがウイーンの大学にいたとき、もう精神分析で有名になっていたフロイトが講義に来た場面だね。学生のモレノにフロイトが「君は何をやりたいのか?」と聞いたのだ。すると学生のモレノは、有名なフロイト博士に「あなたが夢を分析する時、私は人々に再び夢を見る勇気を与えます。いかにして神を演じるかを教えます」と言ったのだね。夢を分析するというのは科学の心だ。人間を理解する手段さ。それに対して、モレノは行動の人だ。人間の持つ夢見る力を応援しようとした。それがサイコドラマだ。
まこと:ほら、またマッシー教授の講義が始まった。いやだな。名誉教授の講義なんか聴きたくない。消してよ。
じいさん:(「バイパット」を消す)
アイヨ。消したよ。まことさんは講義は嫌いなんだね。それが君の抗議だね。
まこと:講義調になると難しいから嫌いだよ。頭の中が真っ白になる。ぼくは普通のじいさんと話したいな。じいさんは夢を分析するの?それとも応援する方?
(バイパットが自動的スイッチが入り、マッシー教授が現れる)
マッシー:出来ない分析をして巻き込まれていろいろ悩んでいるのが君達当事者だ。それに対して、クッキングハウスを作って、夢を実現させているのが松浦幸子さんさ。「夢tomo」もそこから生まれたのだね。それに対して私は夢を楽しむことを勧めたい。それがサイコドラマなのだ。サイコドラマこそ夢のアラカルトだ。
まこと:ほら、又、講義が始まった。 (バイパットを消す)
じいさん:いいじゃないか。講義があって、いろいろなことが分かるんだから。
まこと:それに抗議してはいけないの?
爺さん:講義に抗議かね。それによって講義も深まるからいいんじゃないの。広義な解釈が出来るような講義になるからね。
まこと:下手な洒落言わないでよ。
じいさん:すまん、すまん。で、何の話だっけ?
まこと:ぼくはじいさんの体験を聞きたいんだよ。じいさんは夢を見たの?どんな夢を見たの?昔、鍵をかけない病院を作ろうとしたんでしょう。
じいさん:そうだね。ずっと昔のことだ。学生の時に精神科の病院に実習に行ったら、看護婦さんが鍵をガチャガチャさせているのを見て怖くなったんだよ。
まこと:刑務所みたいなんだね。
じいさん:私は夢を楽しむ方だからね。鍵の音を聞いたんじゃ夢は出てこない。この世から治らない病気をなくし、鍵のある病院をなくそうと思ったんだよ。それが私の夢だった。
マッシー:夢を分析して、人間を研究する人もいる。人間を知ることで満足する人もいる。しかし、モレノは実際に夢を実現させることが好きだったのだ。それが、フロイトとモレノの違いだ。同時に、現実主義者の森田とフロイトの違いでもある。
まこと:今度は森田先生が出てきちゃったよ。僕は喧嘩は嫌だな。
マッシー:喧嘩ではない。直面化といってぶつかることで何かが生まれる。正面からぶつかることはいいことだ。
まこと:ぶつかったり喧嘩をするのは嫌いだよ。二人を仲直りさせてよ。
じいさん:あなたは優しいね。ぶつかるのは喧嘩ではないけど、楽しく平和に生きられる方がいい。私もそう思うよ。出来たら喧嘩せず、ぶつからず、楽しく生きたい。それも私の夢だった。
(「バイパット」に別の人物が現れる)
森田正馬:恐怖突入です。怖いことを避けていては駄目です。不安をなくそうとするから不安が大きくなるのです。不安のままに、怖いままに、必要なことをやっていくのが森田療法です。
まこと:ほら。今度は森田先生が出てきてしまった。恐怖突入なんて嫌だよ。出来ないよ。
じいさん:それはあんたが一人だからだよ。友達が必要だ。仲間がいれば恐怖にも突入できるよ。
マッシー:赤信号、みんなで渡れば怖くない。
まこと:教授が又変なことを言っている、赤信号渡ってはだめだよ。
じいさん:友達、仲間が必要だといいたいのだろう。歌がいいよ。
〈「バイパット」から音楽。♪友達はいいものだ。目と目でものが言える。困った時は助けを出そう。♪〉
じいさん:〈歌う〉♪みんなは一人のために。♪
マッシー:いい歌だね。モレノも森田も人間の持っている良い方向に目を向けさせようとしたのだね。悪いところ解決しようとしても、かえってそこに巻き込まれている人が多いからね。
まこと:でもそれも大事だよね。
マッシー:そう自分で考えて、自分で解決するのが人間に与えられた運命で。昔々、人間は神の声を聞いてそれに従って幸せな生活をしていた。ところが、神の声が聞こえなくなった時があり、そこで、右脳を使って自分で考えるようになった。
まこと:アダムがリンゴを食べて、神の国から追放された話だね。
マッシー:人間は、自分の脳を使っていろいろな文明を作ってきた。しかし、同時に悩むようになった。文明破壊的な世界を作ってきた反面、人間の悩みも作り出した。心の病気もその一つだね。
まこと:右能と左脳のこと?
マッシー:そうだ。右脳の世界がフロイトの夢を分析する世界だ。それに対して、自発性を引き出して自由に夢を見るようにするのがサイコドラマだ。
まこと:モレノと森田と両方ともMがつくけど、まっしーとまこともMだね。ここの松浦さんもMだよ。
マッシー:そうだね。いいところに気がついたね。星のようにこの5人が輝けるといいね。
まこと:Mと言う字も5つのポイントで出来ているね。
マッシー:クッキングハウスは、夢を見るだけでなくそれを実現させたところだね。それを手伝うのがソーシャルワーカーだ。しかしそれの原動力となるのは、現実の世界でぶつかり悩んでいる人たちが声を上げるからだ。まことさんの役割はそこにあるのだね。
じいさん:教授は勝手なことを言うのだから無視してもいいよ。でもまことさんの夢は何かな。
まこと:じいさんの夢を教えて。
じいさん:そうだね、君ぐらいの時には夢があった。精神病院の鍵をなくして、ゆっくり休める場所を作りたかった。庭には孔雀が散歩していて、ホロホロチョウを追いまわせるような病院を作りたかった。
まこと:それが初声荘だったの?
じいさん:楽しい時間が過ごせるように、城ヶ島に行ったり、鎌倉を散歩したり、これは実現できたね。どっちもいいところだよ。
まこと:どうやって鍵をなくしたの?
じーさん:治療共同体の病院を作ろうとしていた精神科医がいたので、一緒に協力したのだよ。
まこと:治療共同体?マックスウエル・ジョーンズの?
マッシー:そうだ。治療共同体を言い出して実行したのがイギリスの精神科医マックス
ウェル・ジョーンズだ。よく知っているな。感心だね。
まこと:関心があるからだよ。いい病院は必要だよね。じいさんもそう思ったの?
じいさん:そう思ったんだよね。初めて精神病院を見学した時に、看護婦さんが鍵をかけるのを見て驚いたんだね。本当に休める場所を作りたかった。でも、お金持ちでもないし、自分ではできなかった。だから、そのお金と理想を持っていた先生に協力したのだよ。
まこと:じゃあ、じいさんも夢を分析するよりも、夢を実現させる方だったんだ。
じいさん:いやいや、私一人では何も出来なかった。出会いだね。その先生との出会い、そして今は、まことさんとの出会いかな?          〈次号へ続く〉

☆ 夢見る勇気 連載第二回 ☆

…筋違い…
(じいさん縁側でバイパットを開いてサッチモの歌を聴いている。
そこに、まことが入ってくる)
まこと:じいさん何を聞いているの。知らない歌だね。
じいさん:私の好きなサッチモだよ。サッチモのトランペットは最高だけど歌もいい。
まこと:そうか、歌もいいけど僕にも聞きたいことがあるんだけど。
じいさん:いいことだよ。サッチモというのは黒人のトランペット吹きで、歌も歌うのだ。これが又良くてね。〈バイパットをつけると、ルイ・アームストロングが「セ・シ・ボン」を歌っている〉。「セ・シ・ボン」人生は素晴らしいってことだよ。
まこと:僕には素晴らしくないよ。わからないことで怒られたんだからね。
じいさん:おや、そうだったのかい。そりゃ筋違いだったかね
まこと:そうだよ。筋違いのことだよ。相談所の職員のやり方に僕が注文をつけたら「そこまで言われる筋合いがない」と言われたんだけど、筋ってなんのこと?
じいさん:道理のことかな。つまり、常識からはずれているということかな?
まこと:どうして質問がいけないの?女性のサポーターの人はそんなこと言わないで、やさしく答えてくれるよ。男性は、スタッフも父親も話が通じないのはどうして?
じいさん:まことさんがあまり率直に答えにくいことを質問するから困っているのかな?
まこと:いろんなことを言っても受け入れるのがシュビングなんでしょう。
じいさん:シュビング?統合失調症の人を支えてきた看護師のことだね。すごい人を持ち出したね。〈バイパットが動き出す〉
マッシー教授:シュビングは統合失調症の人の理解に力をそそいだことで知られている看護師だ。彼女は母親的な態度、絶対的な受容が統合失調症の人たちの理解には大切だといっている。自閉的な状態で、布団の中に何日ももぐりこんで食事もしないでいた女性の介護を頼まれると、枕元に、何日も座り続けて待った話は有名だ。
(シュビング、布団に閉じこもった女性の枕元に座っている。)
医師:シュビングさん、そこに座っていても無駄ですよ。
何をやっても反応がないのですから。
シュビング:いいのです。私は待っています。
看護師:もう4日にもなる。何も反応がないのに、ただ待っているなんて。
マッシー:数日が過ぎたときです。女性に反応が見られた。
女性:布団を少し持ち上げてチラッとシュビングを見る。
シュビング:(黙って見守る)
マッシー:その次の日のことだった。
女性(おきあがると目の前にいるシュビングに語りかける):
もしかしたら、あなたはわたしのお姉さんですか?
シュビング:どうしてそう思うのですか。
女性:だって、あなたは毎日私のところに来ていましたね。そして、待っていてくれたのですもの。きっとあなたは私の姉さんなのですね。
マッシー教授:このようにシュビングが関わったことで、この女性は、ちゃんと起きて食事もするようになった。それは、何も言わずにシュビングが待ち続けたからなのだ。
まこと:シュビングさん。素晴らしいな。どんな気持ちで、そんなことが出来るの?
シュビング:一人ひとりが話したいことを、聞いてあげたいだけ。きっと話したいことがあるはずだと思っていたの。
じいさん:赤ちゃんを育てるとのと同じだね。女性は、何もしゃべらない赤ちゃんを育てるのが仕事だから、気持ちを理解できるのだね。
まこと:自然に聞こえてくるのかな?幻聴みたいだね。
シュビング:「ごちそうさん」の、め以子さんが食べ物たちの声を聞いたようにですね。
マッシー:それに対して、男性が支配する社会もお役所も筋で成り立っているのだ。筋が通らないと話も通らなくなる。一般社会はそれで成り立っている。社会に出て行くには、筋を学ばないといけない。
じいさん:筋たるは及ばざるが如しだ。
まこと:大事な問題を、おちゃらかしてごまかしていいの?じいさんは若い時、どうだった?シュビングのように出来た?
じいさん:凄い突っ込みだね。ザーカ・モレノさんにサイコドラマを教わった時のことを思い出すね。主役の人が感動的なドラマを演じて、その後のシェアリングのところで、私がドラマの分析をしたら怒られたよ。
(バイパットが動き出して、ザーカ・モレノが現れる)
ザーカ:主役が自分の問題を出している時に、分析をしてはいけません。あなた自身のことを話しなさい。それを学ぶには、あなたがドラマの主役を体験しなさい。
マッシー教授:主役が自分のことを語ったときに、それを評価するのは、傷つけることになる。上から目線の典型的な例だ。男性は気持ちを表現するのが苦手なのは、男性ホルモンのせいだと言う人もいる。
まこと:ほら、又、教授の講義が始まった。
じいさん:上から目線。教えてやると言う考えが、筋を大事にする人には起こりがちだな。筋で成り立っているのだから、筋に従って質問しなさいと言いたかったのだろうね。
まこと:でも、それを言われると何も言えなくなるよ。筋を通せない人は社会から出て行くしかないの?社会不適応なの?
マッシー:社会の仕組みを理解するには筋が必要だ。しかし、人間の理解にはかえって邪魔になるのだ。紀元前2000年人類は神の声が聞こえなくなった時、左脳を開発して自分で考えるようになった。それによって今の文明社会を作ってきたが、考えすぎで行き詰っているのが現代社会の問題だ。もっと右脳を活性化しないといけない。それをするのに役立つのがサイコドラマなのだ。
まこと:そうか。だからサイコドラマをやっている男性はやさしくなるのかな?男性だって、やればできるでしょう。
じいさん:そうだね。クッキングハウスの父親教室で、女性の気持ちを理解する言葉を勉強をするのが大切だ。サイコドラマをやると自然に身につくものだ。
まこと:そして左脳の言葉を勉強してほしいね。
マッシー:そうだ。左脳の言葉、、、、違う。違う。分析をしたり筋を通すのが左脳の世界だ。それに対して気持ちを理解するのも夢を実現させるのも右脳の世界なのだ。
     右脳を活性化するのがクッキングハウスであり、サイコドラマなのだ。
まこと:おかしいよ。先月号で名誉教授は、分析が右脳だと言っていたよ。
マッシー:(あわてて)そんなはずはない。でも、言い間違えたかな?どれどれ、本当だ。これは大変だ。逆になっている。訂正だ。訂正だ。幕をしめろ。明かりを消せ!!
まこと:そんなことで名誉教授が務まるの?それこそ筋が通らないよ。
じいさん:右脳左脳でごたごたするのをうのうさのう(右往左往)って言うのだよ
マッシー:(あわてて)こんな時にこそ右脳だ。つまり音楽だ。音楽だ。
〈バイパットが動き出す〉サッチモ現れる「おう、セ・シ・ボン」
じいさん:やっぱりサッチモの歌はいいね。人生は素晴らしい。
まこと:何かごまかされたみたいだけど、まあいいか。(一緒に歌う)セ・シ・ボン

☆ 夢見る勇気 連載第三回 ☆ 

…自然治癒力…
じいさんラジオ体操をしている
そこに、まこと入ってくる
まこと:じいさんもラジオ体操しているの?
じいさん:自分の健康は自分で守らないといけない。この頃、足がふらつくからね。鍛えないといけない。
(バイパット動き出す)
野坂昭如:80を過ぎると、夜のトイレに行く時に、足がもたつくようになった。リハビリをしないといけない。
永六輔:駄目だよ。野坂さんいつも同じ事言っている。リハビリ早くやりなさいよ。
まこと:野坂さんの気持ち分かるよ。薬で身体を動かすのも億劫だもの。何もやりたくないよ。
マッシー教授:休むことも身体を動かすことも、どちらも必要だ。ストレスが強くかかっているときには、まず休息が必要だ。統合失調症の人も、何もしないで休んでいる休息期には、ひたすら休むことが必要だ。そのときに家族が焦って、仕事をさせようとすると発病する。しかし、休息期が終ったら、今度は適当なストレスが必要になる。それがリハビリなのだ。身体の病気も心の病気も同じなのだ。
まこと:又、マッシーの講義が始まった。でも、今どっちがいいのかをどうすれば分かるの。疲れて動けないのは事実なのだよ。それでも動かすの?
じいさん:そうだね、マッシーが言うほど簡単ではないね。休むか働くか、決められない時もある。自分の身体に聞いてみるといいのかな。眠れないとか、イライラするとか、周りのことが気になるとか、そんな時は、身体が休みなさいと教えてくれているんだよ。
まこと:森田療法では、不安のままにやることが必要なのでしょう。どっちなの?
森田先生:休むと言っても、庭いじりや畑仕事が休みになる時もあります。心が疲れているときは、散歩したり畑仕事をすることが休息になるのです。激しい仕事をして身体が疲れたなら、横になって好きな音楽でも聞くことが休むことになるのです。
まこと:じゃあ、ぼくはどうしたらいいの?ラジオ体操なんかしたくないよ。
じいさん:私とおしゃべりするのがいいのかもね。こころのラジオ体操とは、心の中のいろんな嫌なことをおしゃべりして外に出すことかな。好きな歌でも歌って心の中を掃除することかな。それがこころのラジオ体操だね。
まこと:そんなことをしたら嫌われちゃうよ。親や医者は働けるようにさせたいみたい。
マッシー教授:シュビングやセーシェのように薬に頼らず心をほぐす治療者もいる。「安心を贈る」ことが大事だと言った人もいる。クッキングハウスややどかりの里のように安心できる場が地域にあればいいのだ。それをやるのが精神保健なのだ。
(バイパット動き出す)。精神科医の中井久夫、小此木啓吾先生現れる)
中井久夫:統合失調症の人はいつでも焦っています。だから、治療者がやることは、安心を贈り続けないといけないのです。
小此木啓吾:私はシュビングのような(安心を贈れる)人を沢山育てようと思っています
マッシー教授:君の好きな北山修もそうだと小此木先生は評価しているらしいね。
まこと:又マッシー教授が出てきた。じいさんも、昔、家族会で「先生は、この病気は治る、治るって言うけど、結局治らないのじゃないか」って言われたんでしょう。
じいさん:昔は治らない病気だと言われたね。一生精神病院で暮らす人もいた。しかし、安心できる場を地域の中に作っていく松浦さんのようなソーシャルワーカーも出てきた。今では、地域で安心して生活できるようになって来たんだね。
まこと:でも、仕事もないし、お金もない。今の社会で働けば又悪くなる。目に見えているよ。
じいさん:今の社会がもっとゆとりを取り戻さないといけないね。バリ島のように。
マッシー教授:薬物の専門医・八木剛平先生は、ヒポクラテスに戻れと言っていたね。
八木剛平:バリ島でも日本と同じように統合失調症の人が同じ割合でいます。薬も少ないし、病院も少ない。それでも大丈夫なのは、バリ島という地域が、そのような生活を支えているからです。私は薬物の専門家だが、この病気は薬だけでは治らない。心の問題なのだと思います。ヒポクラテスに戻って、そのような環境をつくっていくのがネオヒポクラティズムです。
じいさん:安心できるバリ島みたいなところを、日本にも作っていかないといけない。それが、これからの精神保健の目的だね。
まこと:又、そこに戻ってしまう。この頃じいさんの言っていることが、お経みたいに聞こえてくるよ。
じいさん:そんな有難いことを言っているようにきこえるのかね?
まこと:違う、違う。同じことの繰り返しということだよ。
じいさん:いかん、いかん。そんな時には、心のラジオ体操が必要だ。いい歌を聞こう。近頃、森田療法のような歌が流行っているようだ。ありのままでいいというんだ。
     ディズニーまでそんなことを言い出したんだ。
雪の女王が出てきて歌う。
   ♪ 何も打ち明けず悩んでいるのはもうよそう。ありのままの姿見せよう、ありのままの自分になるの。何も怖くない。風よ吹け。少しも寒くないわ
じいさん:少し違うな。ありのままの自分を出すのは大切だ。だけど、怖いのは怖いのだね。怖いままにやっていくのだ。風が吹けば寒い。寒いけどやることをやるのだね。それが森田療法だ。
まこと:じいさんのお経がまた始まった。僕には夢見るじいさんや北山修がいいな。
    北山修が歌う「若い加藤和彦のように」 地の果てまで旅をして、海の底に沈んでも、絶望せずに、最後の天使、微笑みは絶やさない。きっとあるさ、自由の空が。

☆ 夢見る勇気 連載第四回 ☆ 

…心の翼を広げて…

じいさん テレビを見ているところにまことが入ってくる。
まこと:朝の連続テレビ小説が好きだね。
じいさん:「海女ちゃん」は面白かったが、「ごちそうさん」はもっと面白かった。今の「花子とアン」も面白い。
まこと:でもあれは不倫ドラマでしょう。じいさんは不倫を認めるの?
じいさん:違う、違う。花子が想像のつばさを広げているだろう。
バイパット動き出す。
花子:こんなところに閉じ込められて、それでいいの?
白蓮:これ以上幸せを求めたら罰が当たる気がするの。
花子:大丈夫。閉じ込められても、想像の翼を広げればいいのよ。
じいさん:この対談のテーマである「夢見る勇気」と同じだろう。いいじゃないか。
まこと:夢みたいな話だと馬鹿にされないかな。
じいさん:夢見る勇気には希望が必要だけどね。
フランクル:希望あるイメージを持つことが出来たものがアウシュビッツの過酷な状況を乗り越えられたのだ。
花子:そうよ、親子三人で幸せに暮らす場面を想像するのよ。
まこと:じいさん得意のサイコドラマかい。
じいさん:そうだね。イメージで右脳を活性化するのだね。
マッシー教授現れる。:そうだ。イメージを描くのが右脳の活性化だ。モレノが言うサープラスリアリティなのだ。
モレノ:マルクスが資本論で言っている余剰価値、つまりサープラスヴァリューに対して、私は、サープラスリアリティが重要だと主張したい。
マッシー教授:現在の我々が今生きている世界のほかに、我々はイメージの世界がある。それがもう一つの事実サープラスリアリティであり、それを実現させる場所が…
まこと:また、マッシーが出てきた。バイパットをとめてよ。
じいさん:そう毛嫌いしないで想像の翼を広げてごらん。サイコドラマでは、もし、もう一つの地球に生まれたら何をしているかを考えるのだよ。君が今の自分ではなくて、想像の世界に生まれていたら何をしているのかな。
まこと:恋人がいて、愛し愛されているのがいいな。
じいさん:素晴らしい。パルピテーションだね。恋人はどんな人かな?紹介して欲しいな。
まこと:人のことよりも、じいさんの話を聞きたいな。じいさんは女性を愛したことがあるの?
じいさん:愛したこともあるし、愛されたこともあるね。素晴らしかった。
まこと:カウンセリングで愛が生まれるの?
じいさん:カウンセリングと愛とは違うと思うよ。
マッシー教授:ロジャーズの非指示的カウンセリングが基本なのである。 
ロジャーズ:人間は、人から認められ、愛されていることが分かると、自分で問題を解決できるのです。その状況を作るのがカウンセリングです。
じいさん:ほら、変なことを言うからマッシーがまた出てきた。
まこと:じいさんが女性を好きになったきっかけを教えてよ。
じいさん:そうだね。わたしが好きなジロドゥの「オンディーヌ」の芝居を見に、二人で行ったときだ。彼女が寄りかかってきたので好意を持たれていると思ってね。
まこと:パルピテーションだったんだ。
じいさん:ところが、それが身体が弱いためによりかかる癖があったというのが事実だった。
向谷地生良:恋愛は誤作動から生まれる。
白蓮:これはセイロンティーではないわ。薄めたコーヒーみたい。
宮本青年:あなたみたいな新興成金の奥方は、薄めたコーヒーでも飲ませて追い払うのだ。
村岡社長:若い学生はもっと勉強しなさい。この本を読みたまえ。彼女の書いた本だ。
宮本青年:これは素晴らしい本だ。彼女は美しいだけでなく社会を変える人だったんだ。
まこと:それで宮本青年のようにパルピテーションになったの?
「オンディーヌ」の舞台になる。ハンストオンディーヌ
オンディーヌ:これからは、ハンストオンディーヌ。二人はいるかの夫婦のようにいつも一緒にいましょう。二人の間には、アカエイ一匹通らないのよ。
じいさん:そんな夫婦になると誓ったけど、そうはいかなかった。仕事が忙しくなり、子どもが生まれると、二人の間には鯨が何頭も通るようになった。
まこと:愛を長続きさせる方法はないの?
じいさん:相手を理解し、関心を持ち続けることだね。
まこと:やっぱりカウンセリングだ。カウンセリングで出会いを作ることが出来るの?永遠に続く愛はあるの?アガペーがそうなの?
マッシー教授:アガペーは神の愛のように無償の愛もある。エロスは…。
まこと:神様まで引き合いに出さないでよ。精神科医の愛はどうなの?患者を愛しているの?それと家族への愛とどっちが大きいの?患者が面倒にならないの?犠牲的に愛することができるの?うるさく感じないの?高良先生やモレノはなんていったの?
高良武久:私はここに愛の病院を建てようと思っている。
モレノ:サイコドラマは愛の革命を起す方法だ。
じいさん:そんなことも聞いたことがあるような気がするな。
まこと:じゃあ、カウンセラーは愛してない二人の間に愛を作れるの。じいさんと僕の関係は何なの、じいさんはどこまで人を愛せるの?愛を長続きさせられるの?
じいさん:助けてくれ!まことの質問爆弾が爆発した。もうこの続きは、次にして歌でも歌おう。バイパット頼むよ。助けてくれ。
青木まり子 「祈り」を歌いだす。 愛について… 
 

☆ 夢見る勇気 連載第五回 ☆ 

… 愛は翼に乗って …
じいさん:(部屋を掃きながら)前回のまことさんの質問爆弾は凄かったね。まことさんの「愛」に関する言葉がほら散乱している。
まこと:生きていくのに、愛は一番大切だよね。
バイパット動き出す。美輪明宏が歌う「愛の賛歌」
美輪明宏:越路吹雪さんの歌は甘くしてあります。本当はもっとすごいのよ。愛のためには、国を裏切ってもいい、月を盗めと言えば盗みます。という凄いものなのよ。
マッシー教授:そこまで行くのはまだ早い。前回は、カウンセリングで愛がつくれるかという問題だったのだ。カウンセリングの話にしよう。
まこと:またマッシーが出てきた。
じいさん:たぶん、エリクソンのことを話したいのだよ。ちょっと話させてみよう。
マッシー教授:そうだ。愛の基本は乳幼児期における母親の愛情なのだ。生まれたての赤ちゃんは母親の絶対的な受容の中で生きていくことができる。母親の胸に抱かれてお乳を飲みながら、自分は愛されている、自分は生きていてもいいのだ、という自分への信頼感、「基本的信頼感」を身に着ける。それが愛の大本だ。
まこと:マッシーが怖いことを言っているよ。もしお母さんがいなかったらどうなるの。病気だったらどうなるの。入院していたらどうなるの。
フロイト:病気だけではない。不適切な親子関係の中でいろいろな症状が生まれるのだ。過去を探り、その原因を解明し、それを修正していくのが精神分析だ。
モレノ:そんな過去なんて必要がない。大事なのは現在と未来だ。未来にどのような夢を持つか。それを助けるのがサイコドラマだ。
森田正馬:私もモレノに賛成だ。過去なんて神話に過ぎない。現在を大事にするところから未来が生まれる。
まこと:いろんな人が飛び出てきたぞ。どうしたらいいの?
マッシー教授:家庭の中が不安定だと、この基本的信頼感がうまく育たない。お父さんが自分勝手で好きなことをしていてはだめだ。家庭の中で母親を安心できるようにするには父親も大事なのだ。
松浦幸子:そうですね。それで、クッキングハウスでは「父親グループ」を始めました。とてもいいグループになっています。お母さんが子供に安心を贈れるようにするには、父親の協力が必要なのですね。
まこと:父親だけじゃないよ。社会が問題だ。集団的自衛権は大丈夫なの?
じいさん:戦争が起こればそれどころじゃなくなるね。
白蓮:(髪を真っ白にして)私の息子を返して。花子さんがラジオで奨めたからよ。
美輪:一人息子が戦死したことを知ると、蓮子は悲しみのあまり、一夜にして髪が真っ白になりました。
まこと:じいさん。どうして泣いているの?
じいさん:いや、私の家内も一夜にして髪が真っ白になったことがあったのを思い出したのだよ。
まこと:じいさんのせいだね。仕事ばかりしていて家の中に安心を贈らなかったからだね。
じいさん:そうだね。本当に悪いことをした。でも、患者さんのことが心配だったからね。
マッシー教授:家庭の問題から目をそらして仕事に打ち込んでいるのをワーカホリックという。患者を助けると言いながら、それで不安を解消しているのを共依存という。
まこと:教授も時にはいいことを言うね。
じいさん:その話はそのくらいにして、まことさんが話したいこと早く言わないと終わってしまうよ。
まこと:じいさんが好きなチャップリンに「愛」を聞きたいな。
じいさん:「モダンタイムス」は笑わせたね。あのパンのダンスは最高だ。
じいさん、パンをフォークで刺して、ダンスを踊らせる。♪音楽
まこと:チャップリンの真似をしなくてもいいんだよ。チャップリンの愛だよ。
じいさん:「愛」となると「街の灯」だ。愛する盲目の少女のために、すべてをなげうって笑わせるのがいい。そして、最後に結ばれるところがいいね。希望だね。
花屋の娘:(目の手術で見えるようになっている)あら、あの浮浪者の人私を見ている。花が好きだけどお金がなくて買えないのね。お花をあげましょう。
チャップリンに手渡す。その手の感触から、自分を助けてくれた恩人がチャップリンだとわかる。
花屋の娘:あなたでしたのね。 ♪音楽♪
まこと:チャップリンは何てじいさんに言ったの?
じいさん:おや、サイコドラマみたいだね(チャップリンの歩き方を真似して)。「このように、心から愛していれば、それは、必ず伝わるのだ。愛することは滑稽だけど大事なのだ。自分を愛している人が周りにいることに気付いてほしいね」
まこと:じいさんはいいな。どうしてサイコドラマの人たちは美人が多いの?男性でもやさしい人が多いの?
じいさん:そうかな?特に変わりないと思っていたけど。もしかしたら、サイコドラマをしていると美人になるのかもしれんな?サイコドラマをしているとその人の良いところが出てきてそれが輝くからではないかな?
まこと:カウンセラーは優しいけれど、時々上から目線もあるので嫌だな。もっと、普通に接してもらいたいね。薬剤師さんの方が、よけいなことを言わないからいいな。
薬剤師(女性):お薬ができるまでお茶でも飲んで待っていてください。
薬剤師(男性):薬のことでわからないことがあれば、どんどん聞いてください。
カウンセラー:社会の中では悩みもあるけど、一緒に考えていきましょう。
ソーシャルワーカー:世の中が用意している社会資源を見つけることも大事だよ。
ボランティア:今度、おいしいものを食べに行きましょうか。まことさんは何が好き?
チャップリンと美輪明広:愛は素晴らしい。愛することも、愛されることも
マッシー教授:人に支えてもらう事ばかり考えてはいけない。大事なのは仲間だ。仲間だ、(歌う)♪友達はいいものだ。♪目と目で物が言えるんだ♪
まこと:せっかくいい場面だったのに。音痴の歌で台無しだ。北山先生助けて!
 ♪ 北山修が歌う「あの素晴らしい愛をもう一度」♪

☆ 夢見る勇気 連載第六回 ☆ 

・・・ 劣等感と自己表現 ・・・
じいさん:(お茶を飲みながら)なかなかいいお茶だ。こうなると饅頭がほしくなるな。
     (饅頭を食べながら)こうなると話し相手もほしいな。
そこにまこと入ってくる。
じいさん:いいところに来た。美味しい饅頭があるから食べていかないかい。
まこと、もじもじしている。
じいさん:おや、まことさんらしくないな。何を遠慮しているんだ。
まこと:みんなから注意されたんだよ。じいさんにずけずけ言いすぎるって。
じいさん:いや、そんなことないよ。君は率直に質問してくれるのがいいところだ。こんな年になると、本当のことをきちんと言ってくれる人がいなくなる。そこへいくと、まことさんは遠慮しないで言ってくれるから嬉しいね。
まこと:本当は腹を立てているのに、それを隠しているタヌキおやじじゃないの?
じいさん:タヌキうどんは好きだけどタヌキおやじは嫌だね。
まこと:もっと恐れ入って遠慮すべきだっていう人がいるんだよ。
じいさん:きっと、君に焼きもちを焼いているんだ。自分が言えないことをまことさんが言うので羨ましいのだね。
バイパットが動き出してマッシー教授現れる
マッシー教授:もちろん、いつでも、何を言ってもいいというわけではない。
まこと:ほら、教授が怒り出したよ。
マッシー教授:森田先生と、水谷さんのエピソードを紹介しよう。水谷さんは「生活の発見会」を始めた人だけど、強迫神経症で、それを治すために森田療法を受けていたのだ。完全欲が強くて何でもきちんとしてないと気が済まない人だった。
森田先生:それでは、これで今日の講話は終わります。何か聞きたいことがありますか?
水谷:はい。不安があるので困っています。それをなくすのが治療ではないですか。
森田先生:不安はあってもいいのです。人間であれば不安をなくすことはできません。できないことをやろうとするから苦しくなるのです。不安だけでも苦しいのに、それをやめようと無駄な努力をするのがいけない。わかりましたね。これで終わります。
水谷:もう一つ質問です。
お話が終わって休もうとしていた他の人も慌てて座る。森田先生も立ち上がりかけたのを
座りなおす。
森田先生:まだありますか。何でしょうか。
水谷:できないことを努力するのが大事ではないでしょうか。
森田先生:努力することが悪くしているからやめるのです。では終わります。
水谷:まだわかりません。人類は、努力することで進歩したのです。
森田先生(怒って)ほら、みんなも休みたいのです。私も一休みしたいのにあなたが質問をするからみんな休めない。こんな時には、わからなくても、それは後にして、わかりましたというのです。あなたは自分のことだけを考えている。自分が完全であればいいのです。それが強迫症状の原因です。
まこと:質問したらいけないの?
マッシー教授:質問がいけないのではない。周りの雰囲気を読んで質問をしなさいと教えたのだ。もっとも私ならこんな学生大歓迎だったけどね。
じいさん:つまり森田先生は、いろんな機会を利用して患者さんに教えようとしたのだね。そこが呉先生との違いだね。
呉教授:患者さんはお客様です。だから、お話を聴かないといけません。
森田先生:呉先生は日本の精神医学の父と言われている偉い先生だが、このことだけは納得できない。医師は父親のように教えていかないといけないと思います。
まこと:ほら。森田先生も父親のように上から目線なんだ。
マッシー教授:森田先生のことを批判するとはとんでもない。先生は、いろいろな機会に教えようとしただけだ。質問するには自分のことだけを考えないで相手の状態も見ろと教えたのだ。
まこと:マッシーが怒っている。森田先生を批判したからなの?森田先生のかばん持ちもしたの?
マッシー教授:君がそのように偉い人を批判するのは、劣等感のためかもしれないね。
まこと:今度は劣等感だ。ぼくはその言葉嫌いだ。
バイパットを放り投げる。
じいさん:おや、よほど気に入らなかったんだね。マッシーも少しむきになっていたね。
まこと:どうして劣等感と結びつけるの?学会の偉い先生に文句を言って、日本の精神医療を変えたのが若い先生たちだったのでしょう。今の精神医療の改革もそこから生まれたんだ。マッシー教授は体制派だ。上から目線だよね。
じいさん:たぶん。マッシーの劣等感が問題なのかもしれないよ。小さい時には、海が怖くて泳げなかったり、競争すると一番びりだったり、大きな音が怖くて花火も見られなかったらしいよ。
恐怖のコーラス:大きな音がこわーい怖い。雷、花火に、祭りの太鼓
子どものマッシー:こわいこわい。やめてやめて。
アルフレッド・アドラー:怖がってもいいのです。その劣等感があるから、それを乗り越えるためにいろいろなことが見つかるのです。
森田先生:恐怖や不安はそのままにしておけばいいのです。その人の持っているいい面を育てていけば、不安や恐怖はあってもいいものなのです。
マッシー教授:このようにアドラーと森田によって今の私があるのです。
じいさん:ほらね。不安や劣等感があっても、そのままにして饅頭でも食べようよ。
まこと:僕はこれからも疑問や質問を続けるぞ。劣等感よりようかんだ。ポンカンだ。
プリンセス・プリンセス ♪ダイアモンド♪ いいぞ。まこと。がんばれ!

☆ 夢見る勇気 連載第七回 ☆ 

・・・グループは必要か・・・

まこと:じいさんに今日は聞きたいことがあるんだ。
じいさん:いいよ。何でも聞いてください。
まこと:生きていくのにグループは必要なの。ぼくはグループが苦手なんだけど。
じいさん:グループとなると、マッシーが何か言いだしそうだね。
バイパット動き始める。♪友達はいいものだ♪の歌をバックに
マッシー:人間は集団の動物だ。一人では生きていけない。グループに支えられて生きていけるのだ。グループは必要です。
まこと:また、お説教が始まったよ。
マッシー教授:一人前になるには、家族というグループ、遊びグループ、学習グループ、同性同年代グループ、いろんなグループの中で人間は社会性を身に着けていくのだ。
まこと:ぼくは1対1のカウンセリングの方がいいな。そんないいカウンセラーがたくさんいるよ。
じいさん:それは良かったね。しかし、グループも必要だと思うけどね。
マッシー教授:そうだ。グループだ。グループが大切だ。
エリクソン:まことさんが言うように、最初は1対1の関係が大事です。赤ちゃんとお母さんの関係です。それが基本です。
お母さん:(赤ちゃんを抱いている)さあおっぱいをたくさん飲みましょう。そして大きくなるのです。
赤ちゃん:僕は幸せだなー。いつでもお母さんがそばにいて抱きしめてくれる。生まれてきてよかったなあ。
マッシー教授:確かに最初はお母さんとの関係で人生の基礎がつくられる。しかし、いつまでもそれではいけないのだ。社会に出て行かないといけない。
お母さん:おや、おや、反抗期になったみたいね。最近全然いう事を聞かなくなった。何でも私に反対してくる。
赤ちゃん:もうお母さんはぼくの心の中にしっかりできたからお母さんがいなくても大丈夫だ。今度は外に出て仲間を探そう。
エリクソン:こんな風にして、周りの子どもたちと遊びながら世界を広げていくのです。そして学校に入ると今度は先生が大切になる。
先生:さあ皆さん、学校では社会で生きていく基本を勉強します。
生徒たち:ハーイ。
まこと:ほら、また上から目線だ。マッシーもそうやって育ったの。
じいさん:そうだね。実は、マッシーもグループが苦手だったみたいだよ。
バイパット動く
子どものマッシー:(もじもじしている。)
先生:増野君はいませんか。
友達:増野君は声が出ないのです。病気なんです。
父親:これは困ったことだ。この学校では緊張して話もできない。もっと庶民的な学校に転校させて先生にも相談しよう
じいさん:転校するときに、新しい学校の先生に頼んで友達ができたみたいだよ。その後もいろいろ苦労したので、自分のようにグループが苦手の人のために何かしようということで、グループの専門家になったみたいだよ。
マックスウェル・ジョーンズ:精神病院では毎日全員が集まって話し合いをすると、治療的な雰囲気が出来上がるのです。
モレノ:サイコドラマだ。ドラマで主役をやるにはグループメンバーの協力が必要になる。それが貴重なグループ体験だ。
中井久夫:地域でうまくやっている人を見てみると、自分に合ったグループを持っているものです。安心できる草むらが必要なのです。
マッシー教授:そこでいろいろ研究して、最も楽しくて安心できるグループを考案したのが私だ。歌を入れると楽しくなることにも気づいた。♪友達はいいものだ♪
まこと:ほら。みんな勝手なことを言っているよ。どうかしてよ。グループ同士の喧嘩にならないか心配だよ。おやまた一人出てきた。
安永浩先生:私もグループは嫌いだけど、生きていくにはグループは避けられません。グループは必要悪だから仕方ないのですよ。まことさん。
じいさん:この世のグループは悪くなっているね。だからこそ、安心できるグループが必要なのだろうね。健康を取り戻せるようなグループが必要だね。松浦さんがやっているクッキングハウスのようなグループがたくさんできるといい。
まこと:でもグループにいると操られている感じがするよ。特にサイコドラマは。
マッシー教授:操るのではない。操作なのだ。つまり治療なのだ。
小此木啓吾:そうです。「構造と操作」が精神療法の基本です。特別な構造の中で健康な方向に行けるように操作するのです。グループという構造の中で、その人が成長するように操作するのが集団精神療法です。
モレノ:サイコドラマでは神にもなれる。神の目で自分を見ることもできる。
マッシー教授:守護天使です。守護天使になって自分を見るときに世界が広がって見えるのです。
まこと:やはり空の上から操っているのだ。ピノキオみたいなものだ。ぼくはピノキオにされている。
じいさん:ピノキオも苦労したけどそこから成長していったのだよ。信じて行こう。
ジミー・クリケット(コオロギ):♪「星に願いを」♪

☆ 夢見る勇気 連載第八回 ☆ 

・・・グループの持つ不思議な力・・・ 

まこと:おや?珍しいな。お客さんかい?
じいさん:そうだよ。今日は最終回になるので特別にお客さんをお招きしたのだよ。
まこと:北山先生?
じいさん:そんな偉い先生は呼べないよ。もっと身近な人だ。君が大好きな人だ。
作新学院の牧裕夫先生が現れる
マッキー:ぼくです。マッキーと呼んでください。
まこと:最終ソシオドラマに出ていたダジャラーズの牧先生だ。
マッキー:「夢見る勇気」を愛読していて面白いので乱入させてもらいます。
じいさん:嬉しいね。あの対談が気に入られたとは嬉しいね。
まこと:「夢見る勇気」の効果だね。夢みたいだ。
マッキー:夢じゃないですよ。実在の人物なんだから。そんなに期待されると照れるな。
バイパット動き出す
マッシー教授:マッキーは私の弟子だ。心理劇学会ができる前から私のところでサイコドラマを勉強している。独自の方法も開発していてなかなかしっかりした人だ。今年の心理劇学会でも協力してもらった。
マッキー:マッシーの肩の上の小人だけど、師匠よりもっと遠くが見えるのさ。でも、学会では協力したかったのに、ただの写真係じゃないですか。出たかったな。
マッシー教授:心理劇学会らしく発表を単なるスピーチではなく、ドラマの形式でやってみたのだ。学会としては新しい試みで画期的なことだ。
まこと;マッシーは小さな声でごちゃごちゃ言っていて何を言っているかわからないけどマッキー教授は大きな声でわかりやすいです。どうしたらそうできますか。
マッキー:学生時代千葉にいて、海岸を歌いながら走っていました。それで声が大きくなったのです。でも女性の前では全然ダメだな。
まこと:どうしてサイコドラマを始めたの?
マッキー:グループを楽しくするし、それによって人が変わるのを見たからです。友人に誘われて参加してみたら、1回で人生がマッシー色になっちゃったんです。
まこと:それが嫌なんだよ。きっとグループを操っているでしょう。
マッシー教授:それは操作というのです。それによって人が変化していくようにグループを作用させることです。
マッキー:そうだ。プラット先生が始まりでしたね。
プラット:結核を治す薬もまだ発明されていない時代だった。ただ安静を保つしかない。しかし若者に療養しか方法がないことを話しても、それに従ってくれる人がいない。
結核患者A:療養しろと言ってもできるかい。
結核患者B:どうせ死ぬなら、好きなことをしよう。酒でも飲もう。
結核患者C:そうだ。そうだ。遊びに行こう。
プラット:私の言葉を聞いてくれない。困ったものだ。それに今日は一人一人に話すだけの時間がない。6人まとめて話すしかない。
マッシー教授:ところがグループで話したところ奇跡が起こったのだ。みんな助け合うようになったのだ。これがグループセラピーの始まりなのだ。
結核患者A:おい。酒を飲むのはよそう。皆で病気と闘おう。
結核患者B:そうか。悩んでいるのは自分だけではない。みんな一緒に療養しよう。
結核患者C:そうだ。そうだ。皆でやれば怖くない。
プラット:これは不思議だ。今まで私がいくら口を酸っぱくいっても守らなかった人たちが、グループで話したらちゃんと守ったではないか。
マッシー教授:それがグループの力なのだ。人は、グループの支えがあればどんな辛さにも耐えられるのだ。
まこと:でも、そのグループを操っている怖い人もいるよ。
ヒットラー:そうだ。グループを操って、国を引っ張っていくのがナチスのやり方だ。
安倍首相:日本も国際社会の中で助け合う必要がある。集団的自衛権が必要だ。
マックスウェル・ジョーンズ:集団の中でパーソナリティ障害も改善されるのです。
まこと:どれが良くて、どれが良くないかわからないよ。
じいさん:操られても、それによって幸せになればいいじゃないか。
マッシー教授:小此木教授も「構造と操作」の中でそう言っている。
まこと:ほら操作しているんだ。マッシーはだんだんロジャーズから離れているぞ。大変だ。大変だ。
マッシー教授:それが精神療法だし心理学というものなのだ。
まこと:怖い、怖い!だんだん離れていく。ぼくたちから遠くなっていく。
じいさん:マッシーも少しこだわりすぎているみたいだね。でもどうしたらいいのかな。
バイパット動き出す
マッサン:お父さん。どうしたら、おいしくて安い酒ができるのですか。
お父さん:そうだね。何もかもやろうとしないでどれか一つに絞るのだ。私の場合はお米だった。
じいさん:グループやサイコドラマには何が必要になるのかな?
マッキー:モレノと同じ年に生まれたチャップリンに聞くといいかもしれないですよ。
チャップリン:愛です。人一人一人に対する愛です。そして愛する人や夢のために戦うのです。私の作品「ライムライト」にフロイトと私の違いを描いています。
    ♪ライムライト♪
まこと:ロジャーズだよ。ロジャーズだよ。
じいさん:そうだね。まことさんの言うとおり、一人一人悩んでいる人の中にあるものを聞いていくことだね。そうするといいグループができる。
マッシー教授:そのグループが不思議な力をもって一人一人に力を与えるのだ。
まこと:それがこの最終回のマッシーの遺言なんだね。
   ♪あの素晴らしい愛をもう一度♪


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