クッキングハウスからこんにちは No.207
(記事の一部抜粋)

2022年11月27日発行

 

コロナ禍を越えて やっと会えた喜びにあふれて

朝9時、舞台関係者と一緒に吊り看板や舞台の仕込みを始める。まだ誰もいないホールのロビーに長机を出し、クッキーや書籍を並べ販売準備。そこへ劇団文化座から大きくてみごとなお祝いの花が届く。うわー!すごい。すぐに「松浦さん、お花の横に並んでください」と写真撮影。

11時過ぎからのリハーサルが少し押して、12時半の開場後にロビーに行ってみると、すでにお客様であふれていた。ティールームの用意した100個のギフトクッキーは、開演前だというのに完売している。周りを見れば、レストランにいつも来てくださるお客様たち、学習会に参加してくれている方々。ああ、懐かしい何年振りにお会いするだろう、お元気でしたか、お変わりありませんか、よく来てくださいましたとお互いに声を掛け合う。メンバーのお父さん、お母さんの姿も。体調が思わしくなくて、本番は客席から応援しますというメンバーもお母さんと一緒に来てくれている。「今日まで迷って、でもやっぱり行こうと思って」と、思い切って来てくれた人。調布市障害福祉課をはじめ、メンバーを支援してくれている相談事業所やヘルパー事業所、訪問看護ステーションの方たちの姿も。卒業したメンバー、退職したスタッフも応援に来てくれて、始まる前からもう胸がいっぱいになってしまった。

松浦さんが開始前に集まったメンバーやスタッフに、「全スタッフ、市民のかたの協力を頂き今日を迎えました。客席に座ってくださっているお客様だけでなく、全国から物心両面で応援してくださった方々が200名以上います。その方たちも一緒に座席に座っていると思ってうたいましょう」とご挨拶。本当にそうだ。事務局には、毎日いっぱいのご寄付、お手紙や野菜、果物が届いていたのだから。

終演後のロビーもすごい。私達のリカバリーの思いが届いたのだろう、「すごく良かったよ」「頑張っていたね」「うたの歌詞が胸に響いて来て、涙が出ました」と、駆け寄ってくださる。書籍にサインをする予定だった松浦さんは、途中で皆さんからの感動の声を受け止め、写真撮影に応じ、とうとうサインコーナーまでたどり着けなかったほどだ。外は日没を迎えていたが、感動の波はなかなか収まらず、別れがたく、ロビーはいつまでもあたたかい思いであふれていた。                                     (田村陽子)

35周年の舞台で、仲間とお客様と市民と心を通わせて

13時半に第一部の本番がスタート。メンバーとサポート担当のスタッフは、その少し前から、それぞれが思い思いのきれいな色の服を着て、いつもより少し丁寧なメイクで、男性はビシッときめたスーツ姿で、舞台袖にスタンバイ。そっと観客席をのぞき込むと、大勢のお客様。「見て!見て!たくさんいらしてくれているね」とうれしい気持ちと、慣れない大きな舞台に、私たちはだんだんと緊張していきました。

「本日はクッキングハウス35周年を祝う会にご参加いただき、誠にありがとうございます。司会を務めます、齊藤敏朗です」いつもと変わらない齊藤さんの声。「松浦幸子さんどうぞ」「5年に1回の私達の晴れ舞台に、はるばる遠くから駆けつけて下さいまして、誠にありがとうございます」、あの小さなクッキングハウスでの練習の時と同じ松浦さんの声。2人のいつもと変わらない声に促されるように「そう、私達もいつものように、私達のままでやればいいんだ」とふっと心が定まったのです。 

6人のメンバー達が、それぞれのリカバリーを語っている時も、会場のお客様が本当にあたたかく聞いてくださいました。たとえば、一人暮らしを始めた会田くんが、風邪をひいてスタッフが食べ物を持ってきてくれたエピソードを話し、「お金は自分で払いましたけれどもね」と付け加えると、優しい笑い声がどっと会場に湧いたのです。松浦さんに「あなたのリカバリーの夢はなんですか」という問いかけに、「ピアサポーターになりたいです」等一人ひとりが語るのを「うん、うん」と本当に深く聞いて下さっているのが会場から伝わってきて、私たちは、「応援していただいているのだ。支えられているのだ」と深く感じることができたのです。

又、安高さん、会田くん、内藤さん、江田さん、前沢さん、根本さんが、こんなに大きな舞台なのに、いつもと変わらず、堂々と自分の体験を語っている姿に励まされ、私達も明るく歌うことができたのです。増田さん、細田さん、野歩くん、青木さん、根本さんの伴奏は、舞台でも私たちを力強く支え、導いてくれました。さらに第二部からは、私達の後ろから市民やゲストの方々、非常勤スタッフも歌に加わってくれました。こんなふうに、前からは会場のお客様、舞台では仲間と伴奏者とのつながりを、後ろからは市民の力を実感し、お互いに心を通わせながら、歌うことができたのです。なんとしあわせな時間だったことでしょう。

第一部の後のメンバー休憩室では仲間と語り合う人、静かに過ごす人それぞれでしたが、和やかに語り合い、のびのびと、どっしりと、過ごしているのに驚きました。舞台で安心できたことも大きかったのかもしれませんが、これまで皆で食事を作り、一緒に食べて語り合い、歌を作り、練習し、そして又語り合ってきた日々の積み重ね、そこから作られてきたお互いの絆の深さを感じました。

第二部も終了し、舞台から戻ってきたメンバー達の顔には、流れた涙の跡がある人、やりきったという顔の人、目が赤くうつむき加減の人、笑顔の人それぞれでした。この35周年の舞台は、私達の大きな経験となって、これからの歩みの糧になっていくことでしょう。                                                            (井出歩)

 

私のリカバリーの物語(第二回)

「私達が全力を尽くした晴れ舞台」

「クッキングハウスの35周年を祝う会」が無事、終わりました。みんなが2年以上かけてつくった舞台が終わって、今の気持ちはとにかくホッとしています。

前日は緊張で眠れず、朝も早く目が覚めました。普段、ジーンズばかりの私が滅多に着ないワンピースを着ると、さらに緊張してくるのがわかりました。うたの中の一節、「ドンマイ、オッケー、大丈夫」と心の中で唱えながら、調布のグリーンホールへ向かいました。

ロビーで皆の顔を見るとホッとしました。それにしても皆、目を見張る程きれい!メイクも服も素敵で、いつもより輝いています。男性メンバーはネクタイをきりりとしめ、別人みたいです。リハーサルを済ませ、控室でお弁当をいただき、いよいよ本番です。

袖から「ほどほど音頭」に乗って、舞台に上がっていきました。暗い所から急に照明の眩しい世界になり、ドキドキも最高潮に。練習をしていた時から松浦さんは「楽譜はなるべく下げて、顔がお客様によく見えるようにね」と何度も言われていたので、下ばっかり見ないように、真っすぐ前を向くことを心がけました。

1曲ずつ、練習のように丁寧に。舞台に出る前、スタッフの田村さんに言われた「みんな、笑顔でね」の言葉を思い出して、なるべく口角を上げて。プロの合唱団ではないし、とにかく一生懸命に歌うしかできません。

心なしか笑顔が引きつっていたけど、気が付けば3曲歌い終わって、次はリカバリー体験を語る場面になっていました。私にとっては「35周年」で一番緊張するところ。クッキングスターで何度も練習したように、ゆっくり落ち着いて語ることを心がけました。語りの順番が終わった時、本当に肩の荷が降りた気分になりました。あとは、第二部のうたを頑張るだけ。

足や腰が痛くなってきて、祈るような思いで歌っていました。最後の「クッキングハウスで会いましょう」は、この16曲の中で一番、練習でたくさん歌った曲。会場のお客様も体を揺らして聴いて下さっているのがわかりました。「不思議なレストラン」で無事に全て終了。あたたかい拍手に包まれて退場しました。舞台袖や控室で見交わす皆の笑顔が、最高に素敵!私もすごく感激しました。

ロビーに出たら、弟夫婦が待っていてくれました。お花とお菓子を渡してくれて、「感動した」と言ってくれたのが、本当に嬉しかったです。足も腰も痛くはなったけど、前日のリハーサルから当日のリハーサル、そして本番、始めから終わりまで出ることができて、体力的にも精神的にも又、自信がつきました。

来場して下さったお客様、本当にありがとうございました。私達は次の目標を見ながら、日々笑いながら歩いていきます。どうぞこれからも、見守っていて下さい。 (前澤真貴子)








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