ホーム > 心の居場所(2006年12月号)

君は君の主人公だから
〜べてるの家から学ぶ当事者研究〜
〜自分自身で、共に〜


 2006年も残り少なくなりました。皆さまお元気ですか。
自立支援法がスタートした混乱や、教育基本法の改悪、憲法9条改正の動き等、今年は先の見えない不安にいらだちを感じる年でした。

 しかし一方では、私たちが主権者なのだから、自分たちの問題を力を寄せ合って一緒に考え、解決していこうと新しい芽が育っていることも確実に感じた年でもありました。私たちが大好きでいつも歌っている笠木透さんの「君は君の主人公だから」は、自分の人生の主人公は自分なのだから、悲しさも優しさも、しなやかさも、大切なものとして、人のせいにして生きていってはいけない。自分のものとして引き受けていくと、人と共に生きていくことの大切さが見えてくるよ、というメッセージだと思います。「君は君の主人公だから」を北海道浦河町の“べてるの家”では、「当事者研究」として深め、日々の生活の質を高めているのです。

 11月11日に明治学院大学で行われた「社会福祉実践家のための臨床理論・技術研究会」と、11月24日の「第14回富山リハビリテーション学会」で、クッキングハウスのメンバーとスタッフは、“べてるの家”の発表を聴き、深く共感し、これからの私たちの歩む方向を照らしてもらったのです。「困難な問題に直面した時、誰がどのように荷うのか」から当事者研究は始まりました。当事者研究の実践は、問題と人の切り離し作業からです。「人が問題なのではなく、問題が問題なのだ」という考え方です。「くよくよ考えてはいけないと思っても、次々とよくないことを考えて苦労を抱えている○○さん」という風に理解していくと、当事者も周りの関係者も、抱えている問題に焦点をあてることができます。

 そして自己病名をつけてみる。困難さや苦労していることを自分のものにしていくプロセスなのです。早速クッキングハウスでも、SSTの時間にやってみたらそれぞれの苦労している特徴を実によく見つめた自己病名を発表してくれました。「エネルギー切れソワソワ症」「自信なし、生きていきにくい症候群」「他人の評価依存型、落ち込みスパイラル病」「そううつ爆発型統合失調症」などなど。発表した途端、自分の問題を言葉として的確に外在化できたので、ほっとした表情と仲間たちの「なるほどね、確かにそうだね」と受け止める笑顔がなんとも気持ちのいいSSTの場になりました。

研究しよう!自分の中に・・・仲間の経験の中に・・・専門家や家族と連携しながら・・・
新しい知恵がある!アイデアが眠っている!
さあ、今日から、自分自身で、共に 研究しよう
(“べてるの家”ソーシャルワーカー 向谷地生良さんの発表より)

 浦河町の“べてるの家”での、ぜんせいれん大会(当事者の大会)には、全国から1000人もの人が集まりました(2006.9.21〜23)。「ひとりぼっちをなくそう」を合言葉に100回以上のミーティングを重ねて、準備したとのこと。当事者の早坂潔さんが‘みんな良く来てくれたね。ありがとう ありがとう。’と開会挨拶で言ってくれた。ただそれだけの言葉が胸をうち、涙があふれました。

 前途は困難な状況だらけでも、最も弱い立場の人たちが自分自身を研究し、仲間と共有し生活の中でより質の高い人生をと実践しているのです。さあ、私たちも元気を出して新しい年を迎えましょう。
                             (2006.12.7 松浦幸子)



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